イコジン日記

多賀淳一が、食べる日常、出会う日常をのんびりと綴っていきます~

「1本の傘」

早朝の時間調整で市場の近くのファミレスに

ちょいちょいお邪魔している。

 

とても居心地が良くて、スタッフもお客さん

も馴染みで、あたかも朝だけの家族みたい

な雰囲気にすら感じる時がある。

 

その常連に齢80位かな?それ位の老夫婦が

いらっしゃる。どうやら近所に住まわれて

いるようだ。

 

その奥様の方なのだが、兎に角、よく

しゃべる。ひたすらしゃべっている。

僕もおしゃべりだからあんまり人の事は

言えないが、そんな僕から見ても

すげ~な~って思う程しゃべりまくって

帰っていく。

 

それをご主人はいつもただひたすら

笑って受け流している。

食べるいとまも与えられないほど

なのに、嫌な顔一つせずに・・・

 

そんなご夫婦を僕たちお客、そして

お店のスタッフは面白がって見ている。

 

ある日、天気予報に出てこない、

突然の雨が降ってきた日があった。

当然のように奥様がギャーギャー

騒ぎ出した。

 

すると、ご主人がやおら立ち上がって、

自宅に帰って傘を持って来られた。

びしょ濡れになりながら。

だけどご主人は傘を一本しか持ってきて

いなかった。

それを奥さんは烈火のごとくなじった。

「何で2本持ってこなかったのよ~」と

 

ご主人はいつものように笑って

受け流していた。

 

そして帰る段になって、僕たち

ギャラリーはにわかに期待して観ていた。

その1本の傘がどのように使われるかを・・

 

果たして、清算を済ませて店外に登場

したのは、悠々と傘をさして歩く奥さんと、

その3歩後を、傘をささずにとぼとぼ

歩くご主人の姿だった。

 

僕たちギャラリーは、そのあんまりな

展開に一同みな顔を見合わせてしまった。

そして次の瞬間、皆でちょっと笑って

しまった。

 

ご主人は恐らく1本の傘を相合傘で帰る

密かな野望があったはずだ。

だけどそれは叶わなかった。

 

僕たちギャラリーは、それを “哀” 

だとは感じなかった。

何故か “幸” を感じてしまった。

 

あの夫婦はあれでいいんだ。って誰もが

思ったからだと思う。

 

それで良しと思えば全て “幸” なの

だなと思った。

 

人生ってこれで良しと思えば全て “幸”

って事なんだよな~と感じた朝になった。